大判例

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東京高等裁判所 平成10年(ネ)4800号 判決

控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 石塚文彦

同 森谷和馬

同 大森勇一

被控訴人(被告) Y1

被控訴人(被告) Y2

被控訴人(被告) Y3

右三名訴訟代理人弁護士 鳥飼重和

同 多田郁夫

同 森山満

同 遠藤幸子

同 村瀬孝子

同 今坂雅彦

同 橋本浩史

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らは、株式会社ニッポン放送に対し、連帯して、金一四一億〇六八四万円及びこれに対する被控訴人Y1については平成八年一一月二三日から、被控訴人Y2については同月二六日から、被控訴人Y3については同月二三日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  二につき仮執行の宣言

第二事実関係

事実関係は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄第二「事実関係」記載のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決四頁三行目の「これを容認した」を「これを容認し、自らフジテレビ株の新株引受による利益を享受した」と改め、四行目の「善管注意義務」の次に「、忠実義務」を、六行目の「掲記の証拠」の次に「及び弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。

二  同五頁末行の「乙三」を「乙一から三」と改める。

三  同七頁八行目の「吸収合併された。」の次に「(乙三)」を加える。

四  同八頁三行目の次に行を改めて次の摘示を加える。

「4 そこで、フジテレビの五一・一パーセントの株式を保有していたニッポン放送は、同年一二月二一日、取締役会において、①平成七年一月一二日開催のフジテレビ臨時株主総会において、フジテレビの第三者割当増資並びにグループ本社との合併契約に賛成の議決権を行使する件及び②同日開催のグループ本社臨時株主総会において、グループ本社の第三者割当増資並びにフジテレビとの合併契約に賛成の議決権を行使する件の議案を承認可決した。

被控訴人らは、ニッポン放送取締役として右取締役会に出席し、右議案に賛成し、被控訴人Y1は議長を務めた。(乙五の一)」

五  同八頁四行目の「4」を「5」と改め、「そこで、」を削除する。

六  同九頁一〇行目の「5」を「6」と改める。

七  同一一頁六行目の「6」を「7」と改め、七行目の「二四社」を削除し、八行目の「四八社」を「四九社以内」と改める。

八  同一二頁一行目の「全株主の賛成により、」の次に「具体的な割当先と割当数は取締役会で決議するものとして、」を加え、九行目の「7」を「8」と改める。

九  同一三頁二行目の「8」を「9」と改め、三行目の「文化放送グループ」の次に「(文化放送とJGIコーポレーションを合わせたもの)」を加える。

一〇  同一四頁一、二行目の「容認した」を「容認して、ニッポン放送の新株引受権を放棄した上、自らフジテレビ株の新株を引き受けた」と改め、七、八行目の「フジテレビの取締役会において第三者割当増資に賛成するなどして」を「ニッポン放送の取締役会において、フジテレビ臨時株主総会及びグループ本社臨時株主総会においてフジテレビ及びグループ本社の第三者割当増資等に賛成の議決権を行使する議案に賛成して、これを承認する旨の議決を得た上、フジテレビ及びグループ本社の各取締役会及び臨時株主総会において第三者割当増資に賛成するなどして、ニッポン放送の新株引受権を放棄して」を加える。

一一  同一七頁三行目の「第三者割当増資」から四行目の「反対し」までを「ニッポン放送の取締役会決議において、フジテレビ臨時株主総会等においてフジテレビの第三者割当増資等に賛成の議決権を行使する議案に対して反対し、また、フジテレビ及びグループ本社の各取締役会決議及び臨時株主総会決議においても第三者割当増資に係る議案に対して反対し」と改める。

一二  同二〇頁九行目の「作成設備」を「制作設備」と改める。

一三  同二四頁二行目から二五頁三行目までを次のとおり改める。

「フジテレビの株式が上場されたときの公募価格は一株五五万円であるが、これは第三者割当増資以後額面が一〇分の一になったことによるもので、右割当増資の金額の単位に引き直せば一株五五〇万円ということになる。

そして、ニッポン放送の新株引受権を正当に行使した場合、フジテレビの一回目の増資及びグループ本社の増資分でニッポン放送に割り当てられるべき株数は五八二五・三一株であり、この際の発行価格は一株二六五万円であったから、五五〇万円から二六五万円を差し引いた一株当たり二八五万円がニッポン放送の被った損害ということになり、損害額は一六六億〇二一三万円余りとなる。

また、フジテレビの二回目の増資でニッポン放送に割り当てられなかった株数は一九一四・四六株であり、この際の発行価格は一株三九七万円であったから、ニッポン放送は五五〇万円から三九七万円を差し引いた一株当たり一五三万円の損害を被り、その損害額は二九億二九一二万円余りとなる。

したがって、ニッポン放送が被った損害の合計は、一九五億三一二五万円余りとなるので、その内金一四一億〇六八四万円について損害賠償を求めるものである。」

一四  同三三頁一行目の「九六億円」を「九三億円」と改める。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断するものであり、その理由は、次の二のとおり訂正、付加し、三を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄第三「当裁判所の判断」一ないし五(原判決三四頁五行目から七〇頁八行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

二  原判決の訂正、付加

1  原判決三四頁七行目の「甲二、四」を「甲一から四」と改め、「二四、」の次に「二八の一から一〇、三一、」を「三五、」の次に「四五、」をそれぞれ加え、「六二」を「六一」と改め、八行目の「七の一、」の次に「二、」を、「二六」の次に「の一」を、九行目の「四四から」の次に「五一、五二の一から九、五三の一から三、五四、」をそれぞれ加える。

2  同三五頁七行目の「昭和五九年二月」を「昭和五九年一二月」と改める。

3  同三六頁八行目の「決定した。」を「決定したが、その際、建設のための資金需要が最高一五〇〇億円に上る旨の説明がされた。」と改める。

4  同三七頁六行目の「されたが、」から「説明がされた。」までを「された。」と改める。

5  同四一頁一〇、一一行目の「八七〇億円余」を「八七四億円」と改める。

6  同五一頁一、二行目の「被告ら取締役を含む全役員に各二〇株が割り当てられる」を「右二〇〇株のうち四九五株が被控訴人ら非常勤の取締役を含む全役員に割り当てられる(ただし、社長は五〇株、専務取締役は三〇株、常務取締役は二〇株などとされ、被控訴人らの場合は各二〇株)」と改める。

7  同六四頁末行の「平成五年一月二〇日」を「平成二年一一月一四日」と改める。

8  同六五頁一行目の「見込んでいたこと」から二行目の「不当とはいえず」までを「見込んでいたのであるから、その後の事情の変化を考慮したとしても、右放送設備等の費用を五五七億円と計上して総額一九〇〇億円の資金需要額を要すると見込んだことが不当ということはできず」と改める。

9  同六五頁九行目の「取締役会」から六六頁一行目の「証拠はない。」までを「平成六年一二月二一日に開催されたニッポン放送の取締役会及び同月二七日に開催されたフジテレビの取締役会においてフジテレビの第三者割当増資に係る各議案に賛成の決議をしたときは、未だ割当のされるフジテレビの取締役は明らかにされていなかったのであるから、被控訴人らが右各賛成の決議に加わったことをもって、自ら株式の割当を受けるという自己の利益を図るために行ったものと認めることはできない。」と改める。

三  当審における主張について

1  控訴人は、被控訴人らは、ニッポン放送が有していたフジテレビ株の新株引受権を放棄し、被控訴人ら自らにおいて割当を受けたものであり、これは新株引受権の譲渡ともいえるから、商法二六五条に定める間接の自己取引に該当し、ニッポン放送の取締役会の承認を受けていないから無効であり、また、ニッポン放送から信託されていたフジテレビ株について、新株引受権を放棄して、第三者に対する新株引受権を発生させ、その第三者に自らを含ましめたのであるから、信託法二二条、九条に違反し、さらに、特別背任行為にも該当するものであって、忠実義務違反となることは明らかであり、また、重要なる業務執行又は重要なる財産の処分に該当するものとしてニッポン放送取締役会の承認を要する事項であるから、十分な情報を開示しないまま賛成を得て可決しているという点においても、忠実義務に違反していると主張する。しかし、控訴人の右主張は、平成六年一二月二一日に開催されたニッポン放送の取締役会及び同月二七に開催されたフジテレビの取締役会において、被控訴人らがフジテレビの第三者割当増資に係る各議案に賛成の決議をした時点で、既に被控訴人らが自らフジテレビの第三者割当増資による割当を受けることを知っていたにもかかわらず、その情報を開示することなく自己の利益を図るために賛成決議に加わったということを前提とするものであるが、前記認定のとおりその前提事実を認めることができない以上、控訴人の右主張は失当である。

2  控訴人は、平成六年一二月二一日に開催されたニッポン放送の取締役会において、被控訴人らがグループ本社の第三者割当増資に賛成する議決をする旨決議したことも、親会社たるニッポン放送からみれば、実質的には孫会社に対する新株引受権を放棄することになり、重要なる業務執行又は重要なる財産の処分に該当するから、ニッポン放送取締役会の承認を要する事項であり、また、グループ本社の第三者割当増資の第三者の中にニッポン放送の同業であり競業会社である文化放送とその関連会社が含まれていながらニッポン放送は含まれていなかったから、ニッポン放送にとって極めて不利益な割当の仕方であって、特別背任における第三者への図利目的で行われたとしか評価できず、重大な違法行為であると主張する。しかし、原判決が認定するとおり、フジテレビの株券の上場のためには、資本的関係会社にあるグループ本社を事前に吸収合併しておくことが相当であったが、株主の意向により合併の前後でフジテレビの株主間の持株比率に変動を生じさせないで合併を行うためには、グループ本社の第三者割当増資が必要であったのであるから、右増資に賛成の議決権を行使する旨決議したことをもって、違法に孫会社に対する新株引受権を放棄したものということはできない。また、原判決が認定するとおり、グループ本社において第三者割当による新株発行が行われたのは、合併の前後でフジテレビの株主間の持株比率に変動を生じさせないようにするためであり、グループ本社がフジテレビに吸収合併された平成七年七月の時点でのフジテレビの株主の持株比率は、ニッポン放送が四五・七パーセント、文化放送グループが二八・五パーセントであるところ、文化放送グループの持株比率は、平成六年一二月の時点で三一・八パーセント、平成七年三月の時点で二八・四パーセント、平成八年四月の時点で二七・三パーセントであり、グループ本社の第三者割当増資の第三者の中にニッポン放送が含まれず、文化放送グループが含まれていたからといって、ニッポン放送にとって極めて不利益な割当の仕方であったということはできず、特別背任における第三者への図利目的で行われたものと認めることはできない。

3  控訴人は、親会社が既に過半数株主の地位にあるとき、親会社の取締役としては、その現状を維持することが原則的に求められていると解すべきであると主張する。しかし、そもそもそのように解すべき根拠はなく、また、原判決が認定するとおり、ニッポン放送としては、フジテレビの巨額の増資に応ずることは資力的に困難であったのであり、また、フジテレビの株券の上場審査基準を達成するためには、上場時までに少数特定者持株比率を低下させる必要があったのであるから、被控訴人らがニッポン放送のフジテレビに対する過半数株主の地位を維持することができなくなるのもやむを得ないと判断したことをもって、善管注意義務又は忠実義務に違反するということはできない。

4  控訴人は、過半数株主の地位の維持がどうしても困難である場合でも、それを失うときは、見返りとして新株引受権に応じた割当を確保して、子会社の株式上場に伴う最大限の創業者利益を追求すべきであるのに、被控訴人らはそのための努力を全く放棄したと主張する。しかし、右主張は、ニッポン放送に新株引受のための資力があること及び第三者割当増資の発行価格と上場の際の公募価格との間に差益が生ずることを事前に予測すべきことを前提とするものであるところ、原判決認定の事実によれば、ニッポン放送は、本社ビル建て直し等自社における資金需要の事情もあり、新株引受のための十分な資力がなかったと認められ、また、乙二二によれば、第三者割当増資の発行価格は、時価純資産方式によって算出した時価の株価であると認められるところ、甲五五によれば、公募価格は入札により決まった価格であると認められるから、時価による第三者割当増資の発行価格と入札による公募価格との間に差益が生ずることを事前に予測することができたと認めるに足る的確な証拠はなく、被控訴人らが新株引受権に応じた割当を確保しなかったからといって、これをもって善管注意義務又は忠実義務に違反するものということはできない。

5  控訴人は、フジサンケイグループにおいてフジテレビの株式上場が決定された時期、一九〇〇億円の資金需要見込み額、ニッポン放送の資金調達能力などについて、原判決の事実認定には誤りがあるとしてるる主張する。しかし、原判決が挙示する証拠によれば、原判決の事実認定は相当であり、当審で控訴人が提出した甲号各証も原判決の認定を覆すに足るものではない。

第四結論

以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判宮 原健三郎 裁判官 岩田好二 橋本昌純)

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